シャチの詩

ある時、ブラックジャックがピノコと一緒に散歩をしていると入江のそこに真珠や金貨がピカピカたくさん(ﾟ∀ﾟ)

「なんでこんな素敵な場所を今まで教えてくれなかったの？」とピノコが聞くと、ブラックジャックはおもむろに語り始めた。

医者の仕事を始めたブラックジャック、しかしそのつぎはぎの顔もあり彼の所に来る患者はなかなかいなかった。家が海の近くだった事もあり海をウロウロしていると、1匹の傷ついたシャチが倒れていた。「どうしたお前、誰にやられたんだ？」

ブラックジャックは彼の傷を見て治療してやる事にした。するとシャチは嬉しそうに海の中を泳ぎ周りジャンプ♪

「まさか私の最初の患者がシャチだとはな。初回の受診料はサービスだ、ただし次回からは有料だぞ。」そう告げるとシャチはまた大海原へ帰っていった。

数日後入江を覗くとまた例のシャチが。前回通り治療をするブラックジャック、するとシャチが喜びと共に真珠を口にくわえてブラックジャックに差し出した。「これは、、受診料か？お前エチケットをわきまえてるんだな。」ブラックジャックはこのシャチにトリトンと名付け、彼のカルテを作る事にした。トリトンは10日に1回は怪我をして入江に現れた、ブラックジャックはその度に治療を施し トリトンはその度に真珠や金貨、珊瑚を持ってきてくれた。

ブラックジャックは「なぜトリトンはこんなにも怪我が多いのだろう？」と思いながらも彼が来る度に治療をし、トリトンとブラックジャックは次第に仲良くなっていった。

ある日ブラックジャックが街に出て食事をしていると、漁師達がこんな会話をしていた。

「あのシャチ、オレの船に大穴をあけやがった」

「オレなんてタコツボを全部壊されちまったぜ」

「この前なんてモリでブッ刺してやったのに、数日たったらコロッと出てきてまた漁場を荒らしやがった。なんてタフなシャチだ。」

これはきっとトリトンの事だ！！確かにトリトンの怪我は怪我を負ってくる度にヒドくなっていた。トリトンは人間の漁場を荒らすシャチだったのだ。

そして先日の襲撃で漁師の息子が瀕死の重傷を負い、漁師総出で大規模なシャチ狩りが行われる事もブラックジャックは知った。

ブラックジャックは入江で療養中のトリトンに告げた。

「いいかトリトン、もう時期大規模なシャチ狩りが開始される。漁場荒らしをやめて 今の内にこの海から出て行くんだ、ここにももう来るんじゃない。さもなければお前は殺されるぞ。」

 

そうトリトンに告げた数日後、ブラックジャックが入江に行くとトリトンはいた。

今までに見た事のない様な、血だらけの重傷だった。

「ギ、ギーー。。」弱々しく真珠を口に咥え、治療を待つトリトン。そんなトリトンを見てブラックジャックは

「ダメだトリトン、もうお前の事は治せない。諦めて海に帰るんだ。」怪我が酷すぎて治療ができないのか、再三の注意にも関わらず漁場を荒らした彼への戒めなのか ブラックジャックはトリトンを突き放す。

しかしトリトンは次の日も、その次の日も 血だらけのまま真珠や金貨を咥えて入江にやってきた。日に日に弱っていくトリトン、、しかし彼はブラックジャックの元へ何度もやってきた。

「もうやめてくれトリトン！オレはなにもたくさん真珠が欲しいんじゃない！治せないと言ってるんだ！」辛くなり、突き放すブラックジャック。

そして何日か後、自分が持ってきた真珠や金貨の粒に囲まれながら入江でトリトンは死んでいた。

口には、やっと拾った最後の真珠を一粒くわえて。。

-END-

書いてて泣きそうになりました(´；Д；`)この話は実に手塚治虫らしいと言うか、助けたいけれど助けられない 良心の呵責に囚われるブラックジャック。そんな事はつゆ知らず純粋に「人を信頼する動物」として健気にブラックジャックを信じ続けるトリトン。

この決して相容れない両者のどうしようもない結末が非常に上手く書かれているいい話だと思います。

必ずしも手を差し伸べる事が正しいわけじゃない、でも 自分を初めて頼ってくれた親友を見殺しにしなければならない。きっとブラックジャックはトリトンの「死」を持って、生命と正しく向き合う事を心に刻んだのだと思っています。だから入江の底の真珠や金貨をずっとそのままにしているのでしょう、大切な友人が教えてくれた事を忘れない為に。。

ちなみにアニメ版だとトリトンは死なないんですよ。漁場を荒らしてたのは別のシャチで、実はトリトンは間違えて怪我を負わされてしまったという設定。

それはそれでいい話なんですがそれでは手塚治虫が伝えたかった事が根本から崩れてしまいます。この話がブラックジャックの中でも人気が高いのはやはりトリトンの「死」が絶対なんですよね。

興味がありましたら皆さん是非読んでみて下さい、ハンカチを忘れずに。。